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2026年10月08日

退職給付債務とは?中小企業が知っておきたい考え方と決算・資金繰りへの影響

「退職給付債務」は、決算書の注記や税理士・公認会計士との打ち合わせで出てくる一方で、「結局いくらの負担なのか」「自社の決算や資金繰りにどう関係するのか」が分かりにくい言葉です。本記事では、企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」などの公表資料に基づき、中小企業の経営者・経理責任者が押さえておきたい考え方を整理します。

この記事の要点
・退職給付債務は、退職給付のうち「認識時点までに発生していると認められる部分」を割り引いたものです。
・退職一時金や確定給付企業年金などの確定給付制度が主な対象で、確定拠出制度は掛金の拠出額を費用として処理するのが原則です。
・従業員数が少ない企業などでは、期末の退職給付の要支給額を用いる簡便な方法が認められています。
・会計上の負債の計上と、税務上の損金算入は別の話です。税務の取扱いは税理士に確認してください。


退職給付債務とは何か
会計基準上の定義
退職給付債務は、会計基準の用語の定義で「退職給付のうち、認識時点までに発生していると認められる部分を割り引いたもの」とされています。
かみ砕くと、「将来、従業員が退職するときに会社が支払うと見込まれる退職給付のうち、現時点までの勤務に対応する分を、現在の価値に直した金額」です。まだ働いていない将来の期間に対応する分は含みません。

退職金規程とのつながり
退職給付の金額は、多くの場合、就業規則や退職金規程などに定められた算定式が出発点になります。たとえば「基本給×勤続年数に応じた支給率」のような規程がある会社では、その規程に基づいて将来の支払見込額を見積もることになります。そのため、退職金規程の内容を把握していないと、退職給付債務の大きさを正しく捉えることはできません。

年金資産とは別のもの
退職給付債務とあわせて出てくる言葉に「年金資産」があります。会計基準では、年金資産を、退職給付以外に使用できないこと、事業主および事業主の債権者から法的に分離されていることなど、定められた要件をすべて満たす特定の資産としています。会社の預金に「退職金用」と名前を付けて取り分けているだけでは、通常は年金資産には当たりません。

退職給付債務の計算の考え方
原則的な方法では、数理計算を使って次の順に計算します。実際の計算は、年金数理人や信託銀行、コンサルタントなどの専門家に依頼するのが一般的です。

1. 退職給付見込額を見積もる
従業員が退職したときに支払うと見込まれる退職給付の総額を、退職給付見込額として見積もります。見積りでは、合理的に見込まれる退職給付の変動要因を考慮するものとされています。

2. 期末までに発生した部分を割り出す
見込額のうち、期末までに発生したと認められる額は、期間定額基準(見込額を全勤務期間で割って各期の発生額とする方法)か、給付算定式基準(退職給付制度の給付算定式に従って各勤務期間に帰属させた給付に基づく方法)のいずれかを選んで計算します。

3. 割引率で現在の価値に直す
割引計算に使う割引率は、安全性の高い債券の利回りを基礎として決定するとされています。割引率が変わると退職給付債務の金額も変わるため、決算ごとに数字が動く要因になります。

毎年同じ金額にはならない
従業員が勤続を重ねれば発生した部分は増えますし、割引率や見込みの前提が変われば金額は変動します。また、退職給付水準を改訂した場合などには、会計基準で「過去勤務費用」と呼ばれる債務の増減が生じます。制度を見直す際は、会計上の影響も事前に確認しておくと安心です。

中小企業向けの簡便な方法
「数理計算は大がかりで、中小企業には負担が重い」という声は少なくありません。この点について、会計基準には小規模企業等向けの定めがあります。

会計基準は、従業員数が比較的少ない小規模な企業等において、高い信頼性をもって数理計算上の見積りを行うことが困難である場合、または退職給付に係る財務諸表項目に重要性が乏しい場合には、期末の退職給付の要支給額を用いた見積計算を行うなどの簡便な方法を用いることができるとしています。

要支給額とは
要支給額とは、期末時点で退職した場合に退職金規程などに基づいて支払うことになる金額のことです。具体的な計算方法や、どの規模の企業が簡便な方法を使えるかの目安は、会計基準の適用指針などに定められています。自社がどの扱いになるかは、顧問の税理士・公認会計士に確認してください。

決算書にはどう表れるか
積立状況を示す額
会計基準では、退職給付債務から年金資産の額を控除した額を「積立状況を示す額」とし、負債となる場合は「退職給付に係る負債」などの適当な科目で固定負債に計上します。資産となる場合は「退職給付に係る資産」などで固定資産に計上します。

個別財務諸表では「退職給付引当金」
個別財務諸表では、「退職給付に係る負債」は「退職給付引当金」、「退職給付に係る資産」は「前払年金費用」と読み替えるものとされています。また、個別財務諸表については、未認識数理計算上の差異および未認識過去勤務費用の貸借対照表での取扱いを当面の間適用しない旨が定められています。中小企業の決算書で「退職給付引当金」という科目を目にするのは、このためです。

どの会計ルールに従うか
上場会社でない中小企業が、どの会計ルールに従って決算書を作るかは、会社ごとに異なります。会計基準第26号は会計処理の考え方を知るうえで有用ですが、自社に実際に適用されるルールと計上の要否は、顧問の税理士・公認会計士に確認することをおすすめします。

確定給付と確定拠出で何が違うか
会計基準は、退職給付制度を次の2つに分けています。
・確定拠出制度:一定の掛金を外部に積み立て、事業主である企業が、その掛金以外に退職給付に係る追加的な拠出義務を負わない制度
・確定給付制度:確定拠出制度以外の退職給付制度

社内の退職一時金制度は確定給付制度に当たり、退職給付債務の計算が必要になります。一方、確定拠出制度については、制度に基づく要拠出額をもって費用処理し、未拠出の額があれば未払金として計上します。

制度を移行するときの注意
たとえば退職一時金制度から確定拠出年金へ移行する場合のように、退職給付制度間の移行には、別途、会計処理を定めた基準(企業会計基準適用指針第1号など)があります。移行の検討段階で、会計上の影響を専門家に確認しておくことが大切です。

税務上の注意点
会計上の「負債の計上」と、法人税法上の「損金算入」は別の話です。

かつて法人税法には、退職給与規程を定めている法人が、期末に在職する従業員全員が自己都合で退職したと仮定した場合の退職給与の額(期末退職給与の要支給額)を基礎に、一定額まで損金経理で繰り入れできる「退職給与引当金」の制度がありました。この制度は平成14年度の税制改正で廃止され、国税庁の「法人税関係法令の改正のあらまし」(平成14年8月)にも、経過措置とあわせて示されています。

そのため、会計上で退職給付引当金を計上していても、その繰入額が税務上も当然に損金として認められるとは限りません。たとえば、退職した役員に対する退職給与の損金算入の時期について、法人税基本通達9-2-28は、株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度とし、ただし、支払った日の属する事業年度で損金経理をした場合にはこれを認めるとしています。従業員の退職金を含め、個別の取扱いは税理士にご確認ください。

資金繰りの観点で考えておくこと
退職給付債務は会計上の負債であり、決算日に現金が出ていくものではありません。ただし、退職一時金制度を社内で運営している場合、退職の都度、会社の資金から退職金を支払うことになります。退職給付債務の大きさは、将来の支払負担の目安として資金繰りを考える材料になります。

特に次のような状況では、退職給付債務の把握が重要です。
・勤続年数の長い従業員が多く、今後数年のうちに退職が集中する見込みがある
・退職金規程の支給水準を引き上げた、または引き上げを検討している
・金融機関からの借入や、事業承継、M&Aなどの場面で、退職金の負担を説明する必要が生じる可能性がある

金額の把握だけでなく、「いつ、いくら支払う可能性があるか」を従業員の年齢構成から見通しておくことが、資金繰りの備えにつながります。

まず確認したいこと
・退職金規程があるか、最新の内容に改定されているか
・退職金を社内(会社の資金)で支払う制度か、外部の制度を使っているか
・直近の決算書に、退職給付引当金や退職給付に係る負債が計上されているか
・計上している場合、簡便な方法か原則的な方法か、算定の根拠は何か
・退職金規程の改定や制度の見直しを検討している場合、会計・税務への影響は確認したか

これらを整理するだけでも、顧問の税理士や専門家との相談がスムーズになります。

よくある質問
Q. 退職金規程を作っているだけで、退職給付債務は発生しますか?
A. 退職給付債務は「退職給付のうち、認識時点までに発生していると認められる部分を割り引いたもの」と定義されています。退職金規程などの契約に基づいて将来の支払いが見込まれる場合は、その規程が計算の基礎になります。計上が必要かどうかは、規程の内容や会計ルールによって異なりますので、顧問の税理士・公認会計士に確認してください。
Q. 数理計算をしなくても、簡便な方法で済ませられますか?
A. 会計基準には、従業員数が比較的少ない小規模な企業等で、高い信頼性をもって数理計算上の見積りを行うことが困難な場合などに、期末の退職給付の要支給額を用いた見積計算などの簡便な方法を用いることができるという定めがあります。自社がこれに当たるかは、会計ルールの運用を踏まえて専門家に確認してください。
Q. 退職給付債務と退職給付引当金は同じものですか?
A. 同じではありません。退職給付債務は、退職給付のうち発生した部分を割り引いたものです。決算書に計上される負債は、退職給付債務から年金資産を控除した「積立状況を示す額」が基本となり、個別財務諸表では「退職給付引当金」の科目で表示されます。
Q. 確定拠出年金に移行すれば、退職給付債務はなくなりますか?
A. 確定拠出制度は、掛金以外に追加的な拠出義務を負わず、要拠出額を費用処理するのが原則です。ただし、既存の制度から移行する場合には、移行時の会計処理が別に定められています。事前に専門家と確認してください。
Q. 会計上の引当金は、税金の計算でも費用として認められますか?
A. 法人税法上の退職給与引当金の制度は廃止されており、会計上の引当金の繰入額が当然に損金になるわけではありません。取扱いは個別の事情で異なるため、税理士にご確認ください。

本記事は公的機関の公表資料等を基にした一般的な情報です。個別の制度設計・手続きは専門家にご確認ください。

出典
・企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」(企業会計基準委員会)
https://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards_system/details.html?topics_id=113
・法人税関係法令の改正のあらまし(課税ベースの見直し)平成14年8月(国税庁)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/kaisei2002-1/01.htm
・法人税基本通達 第7款 退職給与(国税庁)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_02_07.htm

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