退職金の源泉徴収の手順|退職所得控除の計算と申告書がない場合の扱い
退職金を支払うとき、会社は所得税および復興特別所得税を源泉徴収して国に納めなければなりません。ところが、退職所得控除の計算や「退職所得の受給に関する申告書」の扱いは、経理・人事の担当者が迷いやすいところです。この記事では、退職金の源泉徴収の手順を、国税庁のタックスアンサー(令和8年4月1日現在法令等)に基づいて整理し、退職所得控除の計算方法と、申告書を受け取っていない場合の扱いを具体例つきで解説します。
この記事の要点
・源泉徴収税額の計算は、退職者から「退職所得の受給に関する申告書」を受け取っているかどうかで変わります
・申告書がある場合は、勤続年数→退職所得控除額→課税退職所得金額→速算表の順に計算します
・申告書がない場合は、退職手当等の支給額に一律20.42%を乗じた額を源泉徴収します
退職金の源泉徴収とは何か
退職金の源泉徴収とは、会社が退職手当等を支払うときに、所得税および復興特別所得税を差し引いて、本人に代わって国に納める手続きのことです。
国税庁によると、納付は原則として支払った月の翌月10日までです。なお、令和9年分以後は、所得税・防衛特別所得税・復興特別所得税を源泉徴収することになります。
ここでいう退職手当等には、退職したことに基因して支払われるすべての給与が含まれます。本来の退職手当のほかに功労金などを支給した場合も、退職手当等に含めて計算します。
死亡退職により支払う退職手当等で、相続税の課税の対象となるものは、所得税の課税の対象とならないため、源泉徴収は必要ありません。
退職金の源泉徴収の手順(申告書を受け取っている場合)
退職金の源泉徴収は、退職する人から「退職所得の受給に関する申告書」を受け取っている場合、次のステップで計算します。
ステップ1:「退職所得の受給に関する申告書」を受け取る
この申告書は、退職手当等の支給を受ける人が、支払者(会社)に提出する書類です。国税庁の手続案内では、提出時期は「退職手当等の支払を受ける時まで」とされています。
会社側で押さえておきたい点は次のとおりです。
・提出先は退職手当等の支払者です。税務署から特に提出を求められた場合を除き、税務署への提出は不要で、支払者が保管します
・その年に他の退職手当等の支給を受けている場合は、その退職手当に係る「退職所得の源泉徴収票」1部が添付書類になります
・支払者が所定の要件を満たす場合は、申告書を電磁的方法で提供してもらうこともできます
ステップ2:勤続年数を計算する
勤続年数とは、原則として、退職手当等の支払者の下で退職の日まで引き続き勤務した期間の年数です。1年に満たない端数があるときは、1年に切り上げます。
ステップ3:退職所得控除額を計算する
ステップ2の勤続年数に応じて、退職所得控除額を計算します。計算方法は次の章で詳しく説明します。
ステップ4:課税退職所得金額を計算する
一般の退職手当等(特定役員退職手当等・短期退職手当等のどちらにも該当しないもの)の場合は、次の式で計算します。
・課税退職所得金額=(退職手当等の収入金額-退職所得控除額)×1/2
課税退職所得金額に1,000円未満の端数があるときは、切り捨てます。
ステップ5:速算表で源泉徴収税額を求める
ステップ4の金額(A)を、国税庁の「退職所得の源泉徴収税額の速算表」にあてはめます。税額は(A×税率-控除額)×102.1%で、1円未満の端数は切り捨てます。
・195万円以下:税率5%、控除額0円
・195万円超330万円以下:税率10%、控除額97,500円
・330万円超695万円以下:税率20%、控除額427,500円
・695万円超900万円以下:税率23%、控除額636,000円
・900万円超1,800万円以下:税率33%、控除額1,536,000円
・1,800万円超4,000万円以下:税率40%、控除額2,796,000円
・4,000万円超:税率45%、控除額4,796,000円
退職所得控除額の計算方法
退職所得控除額とは、退職手当等の収入金額から差し引くことができる、勤続年数に応じた控除額のことです。勤続年数をAとすると、次の表のとおり計算します。
・勤続年数が20年以下:40万円×A(80万円に満たない場合は80万円)
・勤続年数が20年超:800万円+70万円×(A-20年)
障害者になったことが直接の原因で退職した場合の退職所得控除額は、上の方法で計算した額(80万円未満の場合は80万円)に、100万円を加えた金額です。
勤続年数に含める期間・除く期間
国税庁は、勤続期間に含まれる期間と除かれる期間を次のように示しています。
・含まれる期間:長期の欠勤や病気での休職の期間、過去に同一の支払者の下で勤務した期間(一定の場合を除く)、退職給与規程などの明らかな定めに基づき退職手当等の支払金額の計算の基礎に含まれる期間
・除かれる期間:日額表丙欄の適用を受けていた期間、他の支払者の下で勤務するために休職した期間(一定の場合を除く)など
前に退職金を受け取っている場合は控除額が変わる
前年以前に退職金を受け取ったことがある場合や、同一年中に2か所以上から退職金を受け取る場合などは、勤続期間が重複する部分について、退職所得控除額の計算が異なります。このような退職者については、提出された申告書の記載内容と添付書類をよく確認し、個別のケースは国税庁の案内や税務署、税理士に確認することをおすすめします。
申告書を受け取っていない場合の源泉徴収はどうなるか
申告書を受け取っていない場合は、退職手当等の支給額に20.42%の税率を乗じた額を源泉徴収します。1円未満の端数は切り捨てます。
この場合、退職金を受け取った本人が確定申告をして、申告書の提出を受けている場合と同じ計算を行い、所得税および復興特別所得税を精算することになります。
国税庁の手続案内では、国内で退職手当等の支払を受ける居住者はこの申告を行わなければならず、行わない場合は20.42%の税率で源泉徴収が行われることとされています。会社としては、退職者が退職金を受け取る前に、申告書の提出を案内しておくことが大切です。
具体例で確認する
国税庁のタックスアンサーに掲載されている例で、源泉徴収税額の計算を確認します。
例1:勤続10年2か月、退職金800万円(申告書あり)
・勤続年数:端数の2か月を1年に切り上げ、11年
・退職所得控除額:40万円×11年=440万円
・課税退職所得金額:(800万円-440万円)×1/2=180万円
・源泉徴収税額:180万円×5%×102.1%=91,890円
例2:勤続29年2か月、退職金2,300万円(申告書あり)
・勤続年数:30年
・退職所得控除額:800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円
・課税退職所得金額:(2,300万円-1,500万円)×1/2=400万円
・源泉徴収税額:(400万円×20%-427,500円)×102.1%=380,322.5円となり、1円未満を切り捨てて380,322円
例3:退職金800万円(申告書なし)
・源泉徴収税額:800万円×20.42%=1,633,600円
例1と例3は、どちらも退職金が800万円のケースです。申告書がなければ、会社が一旦源泉徴収する額は1,633,600円となり、例1の91,890円との差は1,541,710円になります。この差額は、本人が確定申告をすることで精算されます。退職者の手取りに大きく影響するため、申告書の提出漏れには注意が必要です。
実務で見落としやすいポイント
役員や勤続5年以下の人は2分の1計算が変わる
上の計算式の「2分の1」は、一般の退職手当等の場合の計算です。国税庁は、次の区分では計算が異なるとしています。
・特定役員退職手当等:役員等勤続年数が5年以下である人が、その役員等勤続年数に対応する退職手当等として支払を受けるものです。退職金の額から退職所得控除額を差し引いた額がそのまま退職所得の金額になり、2分の1計算は適用されません
・短期退職手当等:役員等以外の者として勤務した期間により計算した勤続年数が5年以下の人に対応する退職手当等です。退職金の額から退職所得控除額を差し引いた額のうち、300万円を超える部分には2分の1計算が適用されません
同じ年に一般退職手当等のほか、これらの退職手当等がある場合は、課税退職所得金額の計算方法が別に定められています。該当しそうなときは、国税庁のタックスアンサーを確認し、専門家に相談してください。
確定給付企業年金の退職一時金は本人負担の掛金に注意
国税庁は、確定給付企業年金規約に基づいて支給される退職一時金などで、従業員自身が負担した保険料または掛金がある場合には、その支給額から従業員が負担した金額を差し引いた残額を退職所得の収入金額とする、と説明しています。
申告書を出しても確定申告が必要になる場合がある
申告書を提出していれば、原則として退職者本人の確定申告は必要ありません。ただし、医療費控除や寄附金控除の適用を受けるなどの理由で確定申告書を提出する場合は、退職所得の金額を含めて申告する必要があります。
この記事が扱う税目
この記事で説明したのは、所得税および復興特別所得税の源泉徴収です。住民税や社会保険料の取扱いは別のルールですので、この記事では扱いません。それぞれの公的機関や市区町村の案内でご確認ください。
ネクストプレナーズの見解
退職金の源泉徴収で実務上いちばん大切なのは、計算の正確さよりも、退職の前に申告書を確実に受け取る運用を作っておくことだと考えます。申告書がないと、退職者の手取りが一時的に大きく減り、会社への不信につながりかねません。
退職手当等の支払事務は頻繁に発生しないため、担当者が変わると手順が引き継がれにくいものです。退職金規程に定めた手続き、退職時のチェックリスト、申告書の様式を一式まとめておき、退職の申し出があった時点で案内する流れをおすすめします。また、役員や勤続の短い従業員、前に退職金を受け取っている人など、計算が複雑になるケースは、事前に税理士へ確認しておくと安心です。
よくある質問
Q. 退職所得控除はどう計算しますか?
A. 勤続年数が20年以下なら40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)、20年超なら800万円+70万円×(勤続年数-20年)で計算します。勤続年数の1年未満の端数は1年に切り上げます。障害者になったことが直接の原因で退職した場合は、100万円が加算されます。
Q. 申告書を受け取っていないとどうなりますか?
A. 退職手当等の支給額に20.42%を乗じた額を源泉徴収します。退職者本人が確定申告をすることで、申告書を提出した場合と同様の計算で精算されます。
Q. 退職金には必ず2分の1をかけて計算しますか?
A. いいえ、一般の退職手当等の場合の計算です。役員等勤続年数が5年以下の人に対する特定役員退職手当等には2分の1計算が適用されず、勤続年数が5年以下の短期退職手当等では、控除後の金額のうち300万円を超える部分に適用されません。
Q. 退職所得の受給に関する申告書は税務署に提出しますか?
A. 原則として税務署への提出は不要です。国税庁の手続案内では、税務署長から特に提出を求められた場合以外は、支払者が保管することになっています。
Q. 源泉徴収した所得税はいつまでに納めますか?
A. 国税庁によると、原則として翌月の10日までに納めます。
Q. 申告書を出してもらえば、退職者は確定申告をしなくてよいですか?
A. 原則として必要ありません。ただし、医療費控除や寄附金控除の適用を受けるなどの理由で確定申告書を提出する場合は、退職所得の金額を含めて申告する必要があります。
本記事は公的機関の公表資料等を基にした一般的な情報です。個別の制度設計・手続きは専門家にご確認ください。
監修
監修:仙頭 武宏(株式会社ネクストプレナーズ 代表取締役社長)
東京工業大学(現・東京科学大学)工学部制御システム工学科卒業。日本オラクル株式会社でエンジニア、コンサルタントを経て経営企画室マネージャを務める。一橋大学大学院商学研究科(現・一橋ビジネススクール)経営学修士(MBA)修了。独立コンサルタントを経て、2012年より株式会社ネクストプレナーズ代表取締役社長。
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出典
・No.2732 退職手当等に対する源泉徴収(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2732.htm
・別紙 退職所得の源泉徴収税額の速算表(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2732_besshi.htm
・No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
・A2-29 退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_37.htm


