ホーム > コラム一覧 > 特定退職金共済(特退共)とは?中退共との違いと併用の考え方を中小企業向けに解説

コラム

Columns

一覧に戻る

2026年10月11日

特定退職金共済(特退共)とは?中退共との違いと併用の考え方を中小企業向けに解説

特定退職金共済(特退共)は、商工会議所や商工会などの団体が運営する退職金共済制度で、国の制度である中退共と並んで、中小企業が外部に退職金を積み立てるときの選択肢になります。ただ、「特退共と中退共は何が違うのか」「両方使えるのか」は、資料を読んでも分かりにくいところです。本記事では、法令と公的機関の公表資料で確認できる範囲に絞って、特退共の仕組み、中退共との違い、併用を考えるときの注意点を整理します。

特定退職金共済(特退共)とは何か
特定退職金共済(特退共)とは、事業主が特定退職金共済団体に掛金を納め、その団体が従業員の退職時に退職金を支給する退職金共済制度のことです。

所得税法施行令第73条は、退職金共済事業を行う市町村(特別区を含む)、商工会議所、商工会、商工会連合会、都道府県中小企業団体中央会、退職金共済事業を主たる目的とする一般社団法人・一般財団法人などで、一定の要件を備えているものとして税務署長の承認を受けた団体を「特定退職金共済団体」としています。つまり特退共は、国(独立行政法人勤労者退職金共済機構)が運営する中退共とは異なり、承認を受けた団体ごとに運営される制度です。

条文が定める主な要件
同条は、団体の退職金共済事業が満たすべき要件を定めています。要旨は次のとおりです。

・多数の事業主を対象とし、掛金は加入事業主だけが負担する
・被共済者に、他の特定退職金共済団体の被共済者を含まない
・被共済者に、加入事業主である個人やその生計を一にする親族、加入事業主である法人の役員(使用人としての職務を有する役員を除く)を含まない
・払い込まれた掛金は加入事業主に返還しない
・掛金から事務経費を除いた残りは、公社債・預貯金・信託など条文が列挙する資産で運用し、担保に供したり貸し付けたりしない(被共済者の福祉のための貸付など一定の例外があります)
・掛金の月額は被共済者1人につき3万円以下とする
・過去勤務期間を退職給付の計算に含める場合は、その掛金の額や払込み方法も条文の要件を満たす

ここに挙げたのは条文の要旨です。掛金の刻み、給付の細かな設計、手数料などは、条文には書かれていないため、検討する団体の資料で確認してください。

特退共と中退共の違いを比較する
特退共と中退共の違いは、誰が運営するか、誰を加入させられるか、国の助成があるかといった点に表れます。公的資料で確認できた内容を、項目ごとに並べます。

・運営主体:特退共は所得税法施行令第73条の承認を受けた団体(商工会議所、商工会など)。中退共は独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部で、昭和34年に中小企業退職金共済法に基づいて設けられた国の制度です
・加入できる企業:中退共は業種ごとに常時雇用する従業員数または資本金・出資金の要件があります(一般業種は300人以下または3億円以下、卸売業は100人以下または1億円以下、サービス業は100人以下または5千万円以下、小売業は50人以下または5千万円以下)。上で挙げた特退共の主な要件には、このような業種別の定めは含まれていません。加入できる事業主の範囲は、団体の資料で確認してください
・掛金月額:中退共は5,000円から30,000円までの16種類で、従業員ごとに選べます(短時間労働者には2,000円・3,000円・4,000円の特例もあります)。特退共は、条文上、被共済者1人につき月額3万円以下です
・掛金の負担:どちらも事業主だけが負担し、従業員に負担させることはできません
・役員の扱い:中退共では、代表取締役、副社長・専務・常務などは加入できる使用人兼務役員に当たらず、部長・工場長など使用人としての職制上の地位があり、賃金の支給を受けているなど実態として雇用関係が認められる役員に限って加入できます。特退共も、使用人としての職務を有する役員を除き、法人の役員は被共済者に含まれません。個人事業主と生計を一にする親族も対象外です
・国の助成:中退共には、新規加入助成(掛金月額の2分の1、従業員ごとに上限5,000円を、加入後4か月目から1年間)と、月額変更助成があります。特退共に同様の国の助成があるかは、今回確認した公的資料には記載がありません。団体や自治体の資料で確認してください
・退職時の一時金の課税:どちらの制度の一時金も、国税庁のタックスアンサー(No.2725)で、退職手当等とみなされる一時金として挙げられています

関連して、中退共の掛金の決め方や国の助成については、当サイトの中退共の掛金の決め方と国の助成制度の記事もあわせてご覧ください。

特退共と中退共は併用できるのか
併用できるかどうかを一律に定めた規定は、今回確認した公的資料(所得税法施行令第73条と中退共の公式ページ)からは確認できませんでした。確認できた事実は次の3点です。

・特退共の条文は、被共済者に「他の特定退職金共済団体」の被共済者を含まないことを求めています。これは特退共の団体同士の重複についての要件です
・中退共の加入の条件には、すでに中退共制度に加入している方は加入できないとあります。同じ従業員を中退共に重ねて加入させることはできません
・中退共と特退共の間には、退職金相当額を通算できる仕組みがあります

退職金の通算制度のポイント
中退共の公式ページによると、中退共制度と商工会議所・商工会等の特退共制度の間では、相互に退職金相当額を通算できます。条件は次のとおりです。

・退職後3年以内に、退職金の請求をしないでもう一方の制度の被共済者となり、通算の申込みをすること
・中退共と特定退職金共済団体との間で、退職金の引渡契約を結んでいること

中退共の公表資料では、通算契約を結んでいる特定退職金共済団体は、令和8年8月末現在で224団体です。なお、この通算は退職した被共済者ごとに退職金相当額を持ち運べる仕組みで、制度変更に伴って会社の資産を丸ごと移す仕組みではない、と中退共のQ&Aに注意書きがあります。

併用を検討するときの進め方
両方の制度を使うことを検討する場合は、次の順で確認すると整理しやすくなります。

ステップ1:目的を決める。従業員全員の基礎的な退職金をどちらで準備するのか、何を上積みしたいのかを決めます。社長や役員の退職金は、どちらの制度でも原則として対象外になるため、別の準備が必要です
ステップ2:自社が中退共に加入できる規模かを確認する。業種ごとの従業員数・資本金の要件を満たしているか確認します
ステップ3:団体と中退共の窓口で、併用の可否と条件を確認する。掛金、給付、手数料、同じ従業員の二重加入の可否などは、団体の規約や資料で確認します
ステップ4:退職金規程と整合させる。共済からの支給額と、会社として支払う退職金の関係を規程で明確にします
ステップ5:税理士など専門家に会計・税務の扱いを確認する

掛金と退職金の税務の整理
税の話は、法人税・所得税・住民税・社会保険料のどれに関する話かを分けて考えることが大切です。

会社側(法人税)
法人税法施行令第135条は、独立行政法人勤労者退職金共済機構、または所得税法施行令に規定する特定退職金共済団体が行う退職金共済制度に基づいて、被共済者のために支出した掛金を、その事業年度の損金の額に算入すると定めています(条文上、一部の掛金は除かれています)。この点は、中退共と特退共で共通しています。

従業員側(所得税)
退職したときに支給される一時金は、特退共・中退共のどちらも、国税庁のタックスアンサー(No.2725)で退職手当等とみなされる一時金として列挙されています。なお、中退共の公式ページには、掛金は法人企業では損金、個人企業では必要経費となり、全額非課税とあります。特退共の掛金が従業員の給与として課税されるかどうかの扱いは、今回確認した資料には記載がないため、団体の資料や税理士にご確認ください。

住民税・社会保険料
住民税と社会保険料への影響は、本記事では公的資料で確認できていないため、記載していません。導入前に、専門家や年金事務所などにご確認ください。

ネクストプレナーズの見解
中小企業の実務では、制度名の比較から入るよりも、「退職金をいつ、いくら、誰に払う想定か」を先に決めることを優先すべきだと考えます。特退共も中退共も、掛金は従業員1人あたり月3万円が上限となる枠の中での設計になるため、想定する退職金の水準が枠に収まるかを最初に試算することをおすすめします。また、「どちらかに入れば社長や役員の退職金も準備できる」と考えるのは、よくある誤解だと考えます。役員の退職金は、別の準備が必要になるケースが多いためです。併用は設計も管理も複雑になりやすいので、目的を絞ったうえで検討するのが現実的だと考えます。

よくある質問
Q. 特退共と中退共の一番大きな違いは何ですか?
A. 運営主体と加入の枠組みです。特退共は所得税法施行令第73条で税務署長の承認を受けた団体(商工会議所、商工会など)が運営する制度で、中退共は中小企業退職金共済法に基づく国の制度です。中退共には業種別の従業員数・資本金の要件と国の助成があり、特退共の条件は団体ごとに確認する必要があります。

Q. 特退共の掛金は会社の経費(損金)になりますか?
A. 法人税法施行令第135条により、特定退職金共済団体が行う退職金共済制度に基づいて被共済者のために支出した掛金は、損金の額に算入されます(条文上、一部の掛金は除かれます)。個別の会計・税務処理は、顧問税理士にご確認ください。

Q. 社長(役員)も特退共に加入できますか?
A. 原則として加入できません。所得税法施行令第73条は、被共済者に法人の役員(使用人としての職務を有する役員を除く)や、個人事業主・その生計を一にする親族を含まないことを要件としています。

Q. 特退共と中退共は両方使えますか?
A. 併用を一律に認める、または禁じる規定は、今回確認した公的資料からは確認できませんでした。特退共の団体同士の重複や、中退共への重複加入には制限があります。併用を考える場合は、特退共の団体と中退共の双方に、条件を直接確認してください。

Q. 従業員が転職すると、退職金は通算できますか?
A. 条件を満たせば通算できます。退職後3年以内に、退職金を請求しないでもう一方の制度の被共済者となり、通算の申込みをすること、中退共と特退共の団体の間で退職金の引渡契約があることが必要です。

Q. 特退共に払い込んだ掛金は、会社に戻ってきますか?
A. 戻りません。所得税法施行令第73条は、掛金として払い込まれた金額を加入事業主に返還しないことを要件としています。

本記事は公的機関の公表資料等を基にした一般的な情報です。個別の制度設計・手続きは専門家にご確認ください。

監修
監修:仙頭 武宏(株式会社ネクストプレナーズ 代表取締役社長)
東京工業大学(現・東京科学大学)工学部制御システム工学科卒業。日本オラクル株式会社でエンジニア、コンサルタントを経て経営企画室マネージャを務める。一橋大学大学院商学研究科(現・一橋ビジネススクール)経営学修士(MBA)修了。独立コンサルタントを経て、2012年より株式会社ネクストプレナーズ代表取締役社長。
プロフィールを見る

出典
・所得税法施行令(昭和40年政令第96号)第73条(e-Gov法令検索/デジタル庁)
https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000096
・法人税法施行令(昭和40年政令第97号)第135条(e-Gov法令検索/デジタル庁)
https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000097
・No.2725 退職所得となるもの(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2725.htm
・中退共制度の特色(中小企業退職金共済事業本部)
https://chutaikyo.taisyokukin.go.jp/kentou/seido/seido02.html
・中退共制度の加入の条件(中小企業退職金共済事業本部)
https://chutaikyo.taisyokukin.go.jp/kentou/seido/seido03.html
・中退共制度の掛金(中小企業退職金共済事業本部)
https://chutaikyo.taisyokukin.go.jp/kentou/seido/seido04.html
・中退共制度の通算制度(中小企業退職金共済事業本部)
https://chutaikyo.taisyokukin.go.jp/kentou/seido/seido05.html
・Q&A 中退共制度と特定退職金共済制度とは通算できますか?(中小企業退職金共済事業本部)
https://chutaikyo.taisyokukin.go.jp/faq/qa-04/4-1-4.html
・Q&A 使用人兼務役員は加入できますか?(中小企業退職金共済事業本部)
https://chutaikyo.taisyokukin.go.jp/faq/qa-02/2-1-7.html

お問い合わせはこちらから
▲ PAGE TOP