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2026年10月03日

中小企業の退職金の相場と決め方|平均額の見方と制度設計の手順

退職金制度を初めて設計するとき、多くの経営者・人事責任者が最初に気にするのが「他社はいくらくらい払っているのか」という相場です。ただし、退職金の水準は、業種・規模・勤続年数・退職事由・準備方法によって大きく変わるため、平均額をそのまま自社の金額にすることはできません。
本記事では、厚生労働省の令和5年就労条件総合調査の数値を手がかりに、相場の見方と、自社の退職金の水準を決めていく手順を整理します。

まず押さえたい、退職金制度を持つ企業の実態
制度がある企業の割合
令和5年就労条件総合調査によると、退職給付(一時金・年金)制度がある企業の割合は74.9%でした。平成30年調査の80.5%と比べると、低下しています。企業規模別にみると、次のとおりで、規模が小さいほど制度を持つ企業の割合は低くなっています。
・1,000人以上:90.1%
・300〜999人:88.8%
・100〜299人:84.7%
・30〜99人:70.1%
制度がない企業も24.8%あり、退職金制度を設けるかどうか、どのような形にするかは、各社の方針で決めていることがわかります。

制度の形態
制度がある企業について形態別の割合をみると、「退職一時金制度のみ」が69.0%、「退職年金制度のみ」が9.6%、「両制度併用」が21.4%です。企業規模が小さいほど一時金制度のみの割合が高く、30〜99人では77.2%、100〜299人では60.3%となっています。

退職金の準備方法
退職一時金制度がある企業の支払準備形態(複数回答)は、「社内準備」が56.5%、「中小企業退職金共済制度(中退共)」が42.0%、「特定退職金共済制度(特退共)」が9.9%でした。企業規模別では、次のような違いがあります。
・30〜99人:社内準備49.6%、中退共48.5%
・100〜299人:社内準備66.4%、中退共35.3%
小規模な企業ほど、社外の共済制度を利用する割合が高いことがわかります。
退職年金制度がある企業(複数回答)では、確定給付企業年金(CBPを含む)が44.3%、企業型確定拠出年金が50.3%でした。

退職金の相場はどれくらいか
定年退職者の平均退職給付額
同じ調査では、令和4年1年間に、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者に支給した(または支給額が確定した)退職金の1人平均額が公表されています。定年退職者の平均は、次のとおりです。
・大学・大学院卒(管理・事務・技術職):1,896万円(退職時の所定内賃金の36.0か月分)
・高校卒(管理・事務・技術職):1,682万円(同38.6か月分)
・高校卒(現業職):1,183万円(同34.3か月分)
ここでいう「退職給付額」は、退職一時金制度のみの場合は一時金の額、退職年金制度のみの場合は年金現価額、両制度を併用している場合は一時金の額と年金現価額の合計です。

退職事由による違い
大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の1人平均退職給付額を退職事由別にみると、次のようになっています。
・定年:1,896万円(36.0か月分)
・会社都合:1,738万円(27.9か月分)
・自己都合:1,441万円(30.3か月分)
・早期優遇:2,266万円(39.9か月分)
どの学歴区分でも「早期優遇」が最も高くなっています。一方で、会社都合と自己都合の高低は学歴区分によって異なり、高校卒(現業職)では会社都合737万円、自己都合921万円と、大学・大学院卒とは逆の傾向でした。事由別の差は一律ではないため、自社で事由ごとの支給率をどう設定するかは、個別に検討する必要があります。

制度の形態による違い
大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の定年退職者について、制度の形態別の平均額をみると、「退職一時金制度のみ」が1,623万円、「退職年金制度のみ」が1,801万円、「両制度併用」が2,261万円です。高校卒(管理・事務・技術職)では、それぞれ1,378万円、1,613万円、2,145万円でした。
併用の企業の金額が大きく見えるのは、一時金の額と年金現価額を合算して集計しているためです。また、制度の形態ごとに企業の規模や業種の構成が異なるため、この差をそのまま制度選択の優劣として読むことはできません。

平均額を使うときの注意点
統計の平均額を自社の目安にするときは、次の点を確認してください。
・対象は勤続20年以上かつ45歳以上の退職者で、勤続年数が短い人の金額は含まれていません
・勤続年数別にみると、大学・大学院卒の定年退職者で勤続20〜24年は1,021万円、35年以上は2,037万円と、勤続年数による差が大きく出ます
・平均値であり、自社の業績・賃金水準・人員構成に合った金額とは限りません
・年金現価額を含む金額は、受け取り方や制度の前提によって見え方が変わります

自社の退職金の水準を決める手順
手順1:制度の目的を整理する
最初に、退職金制度で何を実現したいのかを言葉にします。長く勤めてもらうための報奨なのか、老後の生活資金の一部を支えるためなのか、採用時に魅力として示したいのかによって、適した設計は変わります。目的が曖昧なまま相場だけを追うと、運用開始後に説明のつかない金額差が生まれやすくなります。

手順2:支給額の算出方法を選ぶ
支給額の決め方には、代表的に次のような方式があります。
・基本給連動型:退職時の基本給などの算定基礎額に、勤続年数に応じた支給率を掛ける
・ポイント制:勤続年数や役職、貢献度などをポイント化し、累計ポイントに単価を掛ける
・定額制:勤続年数ごとに、あらかじめ決めた金額を支給する
基本給連動型は仕組みがわかりやすい一方、昇給のたびに将来の負担が増えます。ポイント制は貢献度を反映しやすい反面、運用ルールの整備が必要です。会社の賃金制度との相性も含めて選びます。

手順3:総額を試算する
方式が決まったら、在籍している従業員全員が将来退職した場合の総額を試算し、資金繰りと照らして無理がないかを確認します。次の数値は説明のための仮定であり、推奨する水準ではありません。
・算定基礎額:月30万円と仮定
・支給率:勤続10年で10、20年で20、30年で30と仮定
この場合の退職金は、勤続10年で300万円、20年で600万円、30年で900万円となります。これを在籍者ごとに積み上げ、退職の時期の見込みと合わせて、毎年どれだけ準備が必要かを把握します。

手順4:準備方法を選ぶ
社内準備は柔軟に設計できますが、退職が重なった年に資金負担が集中するおそれがあります。中退共や特退共のような外部の共済制度は、掛金を積み立てて外部で管理できる点が特徴です。確定給付企業年金や企業型確定拠出年金は、設計の自由度や会社・従業員の負担の考え方が異なります。それぞれの制度内容や条件は、各制度の運営機関の公表情報で確認してください。

手順5:規程に落とし込み、従業員に説明する
支給対象者、算定基礎額、支給率、退職事由ごとの扱い、支払時期などを退職金規程として文書にし、従業員に周知します。規程の整備については、社会保険労務士などの専門家に確認することをおすすめします。

退職金を受け取る側の税の考え方
従業員が受け取る退職金には、所得税の計算上、退職所得控除があります。国税庁の案内によると、控除額は勤続年数(1年未満の端数は切り上げ)に応じて、次のように計算されます。
・勤続20年以下:40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
・勤続20年超:800万円+70万円×(勤続年数−20年)
勤続30年の場合の控除額は、800万円+70万円×10年=1,500万円です。一般的な場合、退職金の額から退職所得控除額を差し引いた残りの2分の1が退職所得の金額になります。ただし、短期間の勤続や役員の退職金には別の取り扱いがあります。
これは所得税に関する説明です。住民税や社会保険料の取り扱いは別の仕組みになるため、実際の手続きは国税庁や自治体の案内、税理士などの専門家にご確認ください。

よくある質問
Q. 中小企業の退職金の相場はいくらですか?
A. 令和5年就労条件総合調査では、勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者の1人平均退職給付額は、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)で1,896万円、高校卒(管理・事務・技術職)で1,682万円、高校卒(現業職)で1,183万円でした。ただし、これは勤続年数の長い退職者の平均であり、自社の目安としてそのまま使えるものではありません。
Q. 退職金制度は必ず設けなければならないのですか?
A. 調査では、退職給付制度がない企業が24.8%あります。制度を設けるかどうかは各企業の判断になりますが、制度を設ける場合は、支給条件などを就業規則や退職金規程に定めておく必要があります。具体的な要件は社会保険労務士などにご確認ください。
Q. 退職事由によって金額を変えてもよいのですか?
A. 調査でも、定年・会社都合・自己都合・早期優遇で平均額に差が出ています。変える場合は、その内容を退職金規程に明記し、従業員に説明できる形にしておくことが重要です。
Q. 中退共と社内準備は、どちらを選ぶべきですか?
A. 調査では、30〜99人規模で社内準備が49.6%、中退共が48.5%と、ほぼ同じ割合でした。どちらが適しているかは、必要な資金の管理方法、従業員数、将来の退職者の見込みなどによって異なります。制度の詳細は勤労者退職金共済機構などの公表情報でご確認ください。
Q. 退職金は一時金と年金のどちらにすべきですか?
A. 調査では、制度がある企業の69.0%が退職一時金制度のみで、21.4%が一時金と年金を併用しています。従業員の希望、会社の資金計画、運営の手間などを踏まえて選びます。判断が難しい場合は、専門家に相談してください。

本記事は公的機関の公表資料等を基にした一般的な情報です。個別の制度設計・手続きは専門家にご確認ください。

出典
・令和5年就労条件総合調査 結果の概況(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/23/index.html
・令和5年就労条件総合調査 退職給付(一時金・年金)制度(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/23/dl/gaiyou03.pdf
・令和5年就労条件総合調査 退職給付(一時金・年金)の支給実態(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/23/dl/gaiyou04.pdf
・退職金を受け取ったとき(退職所得)(国税庁) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm

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