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2026年10月23日

定年延長・再雇用と退職金|支給時期と勤続年数の通算、中退共の扱いを規程でどう定めるか

定年延長や再雇用を進めるとき、多くの中小企業が悩むのが「退職金をいつ、いくら払うのか」という点です。結論から言うと、定年延長と再雇用では雇用関係の続き方が異なるため、退職金の支給時期と勤続年数の数え方を、退職金規程と就業規則に分けて明記しておく必要があります。この記事では、60歳以降の雇用継続を進める中小企業の人事責任者に向けて、定年延長・再雇用と退職金の関係を、法令や公的機関のQ&Aに基づいて整理します。

定年延長・再雇用と退職金で、最初に押さえる前提
定年延長と再雇用とは何か
定年延長とは、会社が定めている定年の年齢を引き上げ、雇用関係を途切れさせずに働き続けてもらう仕組みのことです。再雇用(継続雇用制度)とは、現に雇用している高年齢者が希望するときに、定年後も引き続き雇用する制度のことです。高年齢者雇用安定法第9条は、継続雇用制度を「現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度」と定めています。
65歳までの雇用確保は事業主の義務
65歳未満の定年を定めている事業主は、高年齢者雇用安定法第9条により、次のいずれかの措置を講じる義務があります。

・定年の引上げ
・継続雇用制度の導入
・定年の定めの廃止

厚生労働省のページによると、平成24年度までに労使協定で継続雇用制度の対象者を限定していた事業主への経過措置は、2025年3月31日で終了しています。2025年4月1日以降は、希望者全員を65歳まで継続雇用する制度を導入する場合も含め、上の3つのいずれかが必要です。なお、同ページには、経過措置の終了によって65歳までの定年引上げが義務になるわけではないことも明記されています。

また、同法第10条の2では、65歳以上70歳未満の定年を定めている事業主や、継続雇用制度を導入している事業主に対し、70歳までの就業を確保する措置を講じる努力義務を定めています。つまり、定年延長か再雇用かは法律上どちらも選べますが、どちらを選んでも、退職金の扱いは会社が自ら決めて規程に書く必要があります。
退職金の定めは就業規則に書く必要がある
労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に、就業規則の作成と届出を義務づけています。退職手当の定めをする場合は、適用される労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払の方法、退職手当の支払の時期を、就業規則に記載しなければなりません。記載した事項を変更した場合も、同様に届け出ます。定年延長や再雇用で退職金の扱いを変えるなら、規程の改定が必要になります。規程の基本的な作り方は、退職金規程の作り方でも整理しています。

定年延長と再雇用で、退職金の扱いはどう違うのか
結論として、違いは「定年の時点で雇用関係が終わるかどうか」です。中小企業退職金共済法でいう「退職」は、従業員と事業主の雇用関係が終了することを指します。

・定年延長:60歳で雇用関係が終わらず、そのまま働き続けます。退職は新しい定年(たとえば65歳)の時点になります。
・再雇用:60歳でいったん定年退職となり、新たに雇用契約を結び直します。定年の時点で「退職」が生じます。

この違いが、退職金をいつ支給するかの選択肢を左右します。再雇用なら定年時に退職金を支給する設計を取りやすく、定年延長なら、旧定年時に支給するのか、新しい定年まで待つのかを、会社が選ぶことになります。

退職金の支給時期は、どう定めればよいか
定年延長の場合:新しい定年まで待つか、旧定年時に支給するか
定年延長の場合の主な選択肢は、次の2つです。

・新しい定年(退職日)に支給する:雇用関係が続くあいだは支給せず、実際に退職するときに一括で支給します。規程の文言が単純で、運用の例外も少なくて済みます
・旧定年時に一部または全部を支給する:延長前の定年に達した時点で、それまでの勤続期間に係る退職金を支給します。従業員が「60歳で退職金が出る」前提で生活設計をしている場合の配慮になります。ただし、後述するとおり税務上の条件があります

旧定年時に支給する場合は、その後に支払う退職金で、すでに支給した期間をどう扱うかを規程に明記しておきます。支給済みの期間を二重に計算しないためです。
再雇用の場合:定年時に支給するか、再雇用の終了時まで通算するか
再雇用の場合の主な選択肢も、次の2つです。

・定年時に退職金を支給し、再雇用後の期間は退職金の対象にしない:定年時点で精算するため、再雇用後の給与水準や契約期間が変わっても、退職金の計算は影響を受けません
・定年時には支給せず、再雇用の終了時に、定年前の期間と再雇用期間を通算して支給する:従業員にとって支給時期は遅くなりますが、勤続年数を通算した金額で計算できます

どちらを選ぶ場合も、再雇用契約を結ぶ時点で、退職金の扱いを書面で本人に説明しておくことが大切です。

勤続年数と計算の基礎額は、どう決めるか
結論として、規程には「勤続年数を通算するか」「再雇用後の期間を計算に含めるか」「計算の基礎となる給与は何か」の3点を明記します。

ステップ1:勤続年数の起算点と終点を決める
入社日から旧定年日までで計算するのか、新しい定年日まで(または再雇用終了日まで)で計算するのかを決めます。

ステップ2:再雇用後の期間の扱いを決める
再雇用後の期間を、退職金の対象に含めるのか、含めないのかを決めます。含める場合は、勤務形態(フルタイムか短時間か)によって計算を変えるかどうかも決めておきます。

ステップ3:計算の基礎となる給与を決める
退職時の基本給を基礎とする方式の場合、再雇用で給与が下がると、そのまま計算すると退職金も下がります。定年時の基本給を基礎として固定するのか、再雇用後の給与で計算するのかを、規程に書いておきます。

退職金の水準の考え方は、中小企業の退職金の相場と決め方もあわせて参考にしてください。

中退共に加入している場合の扱い
中退共(中小企業退職金共済制度)に加入している場合は、制度側のルールも確認する必要があります。以下は、中退共の公式Q&Aに書かれている内容です。

定年延長の場合
定年延長により60歳時点で雇用関係が継続する場合は、従来どおり中退共の加入を続け、65歳で定年退職を迎えて雇用関係が終了した時点で退職手続きを行うことになります。定年延長後の65歳を迎える前に掛金の積立てを終了すると、雇用関係が続いているため、退職金ではなく解約手当金として支払われます。中退共のQ&Aでは、この解約手当金は一時所得として扱われるとされており、旧定年時に支払う場合の取扱いは、最寄りの税務署への相談が推奨されています。
再雇用の場合
定年退職により雇用関係が終了し、新たに雇用契約を結ぶ場合は退職となるため、「被共済者退職届」を提出する必要があります。そのうえで、退職金規程に基づき、次の3つの選択肢があります。

・退職金を受け取り、再雇用後は中退共に加入しない
・退職金を受け取り、再雇用後に再び加入して一から積み立てる(再雇用の契約満了による退職時に、再度退職金を受け取る)
・退職金を受け取らず、再雇用後に再び加入し、これまで掛けてきた退職金を通算する(再雇用の契約満了による退職時に退職金を受け取る)

2つ目の「再加入して一から積み立てる」場合は、中退共のQ&Aによると、加入期間が11月以下では退職金が支給されず、12月以上23月以下では掛金納付総額を下回る額になります。再雇用の期間が短い場合は、この点に注意してください。

退職の届出が遅れると、退職月の翌月以降も掛金が引き落とされる場合があります。退職日の1〜2か月前から届出が可能とされているため、再雇用の手続きとあわせて早めに準備します。掛金の決め方や国の助成については、中退共の掛金の決め方と国の助成制度で解説しています。

税務上の注意点:旧定年時に退職金を払う場合
以下は、所得税の所得区分についての説明です。住民税や社会保険料への影響は、この記事では扱いません。

退職金は、本来は退職した人に支払うものです。引き続き勤務する人に一時金を支払うと、原則として給与として扱われる可能性があります。ただし、国税庁の所得税基本通達30-2は、引き続き勤務する使用人に支払う一時金のうち、次のような場合を退職手当等として扱うとしています。

・いわゆる定年に達した後引き続き勤務する使用人に対し、その定年に達する前の勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与(通達30-2(4))
・労働協約等を改正して定年を延長した場合に、延長前の定年に達した使用人に対し、その定年に達する前の勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与で、支払うことにつき相当の理由があると認められるもの(通達30-2(5))

これらは、その給与を支払った後に支払う退職手当等の計算で、すでに支払った給与の計算の基礎となった勤続期間を一切加味しないという条件のもとで支払われるものが対象です。また、通達30-8は、この給与に係る勤続年数について、計算の基礎とされた勤続期間の末日に退職したものとして計算するとしています。

実際に旧定年時に打切り支給をするかどうかは、「相当の理由」の有無など個別の事情によって判断が分かれます。実施する前に、税理士や税務署に確認することをおすすめします。

規程を見直す手順
定年延長や再雇用を導入・変更するときは、次の順に進めると抜け漏れを防げます。

ステップ1:現行制度を確認する
現在の定年年齢、再雇用制度の有無、退職金規程の支給事由(「定年退職」の定義)を確認します。外部積立制度(中退共など)に加入している場合は、その契約内容も確認します。

ステップ2:支給時期と通算の方針を決める
本記事で整理した選択肢から、会社の方針を決めます。資金繰りの負担が支給時期によって変わるため、経営層と経理責任者を交えて判断します。

ステップ3:退職金規程・就業規則を改定する
適用範囲、計算方法、支払時期を明記します。就業規則を変更した場合は、労働基準法第89条にもとづく届出が必要です。

ステップ4:外部積立制度の手続きを確認する
中退共などに加入している場合は、退職届や継続加入の手続きの時期を確認します。

ステップ5:対象の従業員に説明する
定年が近い従業員には、退職金をいつ、いくら受け取れるのか、再雇用後は退職金が出るのかを、書面で伝えます。

ネクストプレナーズの見解
定年延長や再雇用では、「いつ支払うか」と「再雇用後の期間を数えるか」が規程に書かれていないと、会社と従業員の認識がずれやすいと考えます。中小企業では、定年を延ばす前に、退職金の財源をどこから出すのかを経理責任者と確認しておくことをおすすめします。また、旧定年時に打切り支給をする場合は、税務の取扱いを必ず専門家に確認したうえで進めるのが安全だと考えます。

よくある質問
Q. 定年を65歳に延長すると、退職金はいつ払えばよいですか。
A. 支給時期は規程で定めます。労働基準法第89条は、退職手当の支払の時期を就業規則に記載するよう求めています。雇用が続くあいだは支給せず、新しい定年の退職時に払う方法と、旧定年時に払う方法があります。いずれも規程への明記が必要です。
Q. 再雇用した従業員にも退職金を払う必要がありますか。
A. 再雇用後の期間を退職金の対象にするかどうかは、会社が規程で定めます。定年時に退職金を支給して再雇用後は対象外にする方法と、再雇用の終了時に通算して支給する方法があります。
Q. 中退共に加入している従業員が再雇用になると、どうなりますか。
A. 定年退職により雇用関係が終了する場合は、被共済者退職届の提出が必要です。そのうえで、退職金を受け取って再加入しない、受け取って再加入する、受け取らずに再加入して通算する、の3つから選びます。
Q. 定年延長で、中退共の掛金を60歳で止めることはできますか。
A. 雇用関係が続く場合、65歳になる前に積立てを終了すると、退職金ではなく解約手当金として支払われます。中退共のQ&Aでは一時所得として扱われるとされています。
Q. 旧定年時に支払う退職金は、退職所得として扱えますか。
A. 一定の条件を満たせば、退職手当等として扱われる場合があります。国税庁の所得税基本通達30-2に条件が書かれていますが、個別の事情で判断が分かれるため、実施前に税理士や税務署へ確認してください。
Q. 70歳までの就業確保は義務ですか。
A. 義務ではなく、努力義務です。高年齢者雇用安定法第10条の2が、65歳以上70歳未満の定年を定める事業主などに、70歳までの就業を確保する措置を講じる努力義務を定めています。

本記事は公的機関の公表資料等を基にした一般的な情報です。個別の制度設計・手続きは専門家にご確認ください。また、退職金の取扱いは、会社の規程や加入している制度の規約によって異なる場合があります。

監修
監修:仙頭 武宏(株式会社ネクストプレナーズ 代表取締役社長)
東京工業大学(現・東京科学大学)工学部制御システム工学科卒業。日本オラクル株式会社でエンジニア、コンサルタントを経て経営企画室マネージャを務める。一橋大学大学院商学研究科(現・一橋ビジネススクール)経営学修士(MBA)修了。独立コンサルタントを経て、2012年より株式会社ネクストプレナーズ代表取締役社長。
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出典
・高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(e-Gov法令検索)
・労働基準法(e-Gov法令検索)
・高年齢者雇用安定法の改正~「継続雇用制度」の対象者を労使協定で限定できる仕組みの廃止~(厚生労働省)
・定年退職を迎える職員が再雇用で勤務を継続する場合、中退共の取り扱いはどのようになりますか?(中小企業退職金共済事業本部)
・定年延長をした場合、定年時に積立てをストップできますか?また、定年退職後再雇用された場合はどうなりますか?(中小企業退職金共済事業本部)
・会社の規程により定年が60歳から65歳に延長された場合、中退共の取り扱いはどのようになりますか?(中小企業退職金共済事業本部)
・従業員が退職したときは事業主はどんな手続きをすればいいですか?(中小企業退職金共済事業本部)
・法第30条《退職所得》関係(所得税基本通達)(国税庁)

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