役員退職金はいくらまで損金算入できる?不相当に高額の判断基準と功績倍率法の考え方
役員退職金の損金算入について、「いくらまでなら税務上問題にならないのか」は、社長や役員の退任を控えた中小企業の経営者・経理責任者が最も気にする点です。結論から言うと、役員退職金のうち損金に算入されるのは「適正な額」までで、法人税法は「不相当に高額な部分」を損金の額に算入しないと定めています。ただし、法令や国税庁の通達に「〇倍まで」「〇円まで」といった一律の上限は書かれていません。この記事では、法人税法・同施行令・国税庁の資料で確認できる範囲で、判断の枠組み、功績倍率法の考え方、損金に算入される時期、分掌変更の場合の扱いを整理します。
役員退職金の損金算入の基本ルール
役員退職金とは、退任(退職)した取締役などの役員に対して、会社が支給する退職給与のことです。従業員の退職金と同じ「退職金」という言葉を使いますが、税務上は役員給与の一部として、従業員とは別のルールで扱われます。
損金に算入できるのは「適正な額」まで
役員に支給する退職金は、適正な額であれば損金の額に算入できます。国税庁のタックスアンサーNo.5208も、「法人が役員に支給する退職金で適正な額のものは、損金の額に算入されます」としています。
一方、法人税法第34条第2項は、役員に対して支給する給与の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、損金の額に算入しないと定めています。
なお、月々の役員報酬(定期同額給与)や事前確定届出給与などの要件を定めた同条第1項は、「退職給与で業績連動給与に該当しないもの」を対象から除いています。退職給与は、それらの要件を満たすかどうかではなく、金額が適正かどうかで判断される、というのが基本の考え方です。
「不相当に高額」はどう判断されるのか
不相当に高額な部分とは、支給した退職給与の額のうち、退職給与として相当と認められる金額を超える部分のことです。法人税法施行令第70条第2号は、次の事情などに照らして、退職した役員に対する退職給与として相当かどうかを判断すると定めています。
・その役員が、その法人の業務に従事した期間
・退職の事情
・同種の事業を営む法人で、事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況
超えると判断された場合に損金不算入となるのは、その超える部分の金額です。支給額の全額が否認されるわけではありません。ただし、条文は「支給の状況等に照らし」としており、具体的な金額や倍率の基準は条文に書かれていません。
要点のまとめ:①適正な額までは損金に算入できる ②不相当に高額な部分は損金不算入 ③判断は、勤務期間・退職の事情・同種同規模の法人の支給状況などに照らして行われる
功績倍率法とは何か
功績倍率法とは、役員退職金を「最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率」のような形で算定する方法のことです。役職や貢献度に応じた倍率を掛けて金額を決める考え方で、役員退職金規程の算定式として用いられます。この算定式は実務上の考え方であり、法人税法や施行令に計算式が定められているわけではありません。
国税庁の法人税基本通達9-2-27の3は、いわゆる功績倍率法に基づいて支給する退職給与は業績連動給与に該当しないため、法人税法第34条第1項の規定の適用はない、としています。つまり、功績倍率法で計算した退職金も、最終的には「不相当に高額かどうか」という前記の基準で判断されます。
通達や条文には、倍率の具体的な数値は書かれていません。倍率が妥当かどうかは、在任年数、退職の事情、同種・同規模の法人の支給状況などに照らして、会社として説明できるかどうかにかかっています。
役員退職金の相場はいくらか
役員退職金の相場について、法令や国税庁の通達には、一律の金額や倍率は示されていません。会社ごとの事情によって判断が分かれるため、「何倍なら安全」と言い切れる数字は、公的資料からは確認できません。
判断の材料になるのは、前記の施行令の要素です。社内の役員退職金規程、過去に退任した役員への支給実績、在任年数、退職の事情を整理し、なぜその金額になったのかを説明できる状態にしておくことが重要です。自社の規程がまだ整っていない場合は、退職金規程の作り方もあわせてご覧ください。
役員退職金はいつの事業年度の損金になるのか
役員退職金が損金になる時期は、原則として、株主総会の決議等によって金額が具体的に確定した日の属する事業年度です。国税庁のNo.5208と法人税基本通達9-2-28は、次のように整理しています。
・原則:株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度
・例外:退職金を実際に支払った事業年度に損金経理をした場合は、その支払った事業年度に損金の額に算入することも認められる
・注意:確定する事業年度より前に、取締役会で内定した金額を損金経理により未払金に計上しても、その時点で損金の額に算入することはできない
・退職年金:退職年金制度に基づく退職年金は、その年金を支給すべき事業年度が損金算入時期となる
会社法第361条は、取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(報酬等)について、定款に定めがないときは株主総会の決議によって定めると規定しています。支給の手続きが会社法上どうなるかは、定款の定めも含めて、顧問の弁護士・税理士などに確認してください。
退任後も会長・相談役として残る場合(分掌変更)の扱い
役員の分掌変更に際して退職金を支給した場合でも、役員としての地位や職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情があると認められれば、退職給与として取り扱うことができます。法人税基本通達9-2-32は、その事実の例として次の3つを挙げています。
・常勤役員が非常勤役員になったこと(常時勤務していなくても代表権を有する者や、代表権はなくても実質的に法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く)
・取締役が監査役になったこと(監査役でありながら実質的に法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者などを除く)
・分掌変更後の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと(分掌変更後も法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く)
これらはあくまで例示です。形式的に役職名を変えただけで、経営への関与が実質的に変わらない場合は、退職給与として認められない可能性があります。また、同通達の注記では、分掌変更の場合の「退職給与として支給した給与」には、原則として、未払金等に計上した額は含まれないとされています。分掌変更で退職金を支給する場合は、実際に支払うことを前提に資金計画を立てる必要があります。
使用人兼務役員・他の退職給付がある場合の注意点
役員退職金の判定では、他の給付との関係にも注意が必要です。法人税基本通達は次の取扱いを示しています。
・使用人兼務役員に退職給与を役員分と使用人分に区分して支給した場合でも、その合計額で、不相当に高額かどうかを判定する(9-2-30)
・退職した役員が、既往における使用人兼務役員としての勤務に応ずる確定給付企業年金規約に基づく給付や、企業型年金規約に基づく給付を受ける場合は、その給付額も勘案して、退職給与が不相当に高額かどうかを判定する(9-2-31)
なお、ここまでは会社側の法人税(損金算入)の話です。退職金を受け取る役員側の所得税・住民税の扱いや源泉徴収は別の論点になります。源泉徴収の手順は退職金の源泉徴収の手順で解説しています。
中小企業が役員退職金を準備する手順
ステップ1:役員退職金規程の有無と内容(算定式・倍率・支給時期)を確認する
ステップ2:在任年数、退任直前の報酬額、退職の事情を整理する
ステップ3:同種・同規模の法人の支給状況など、金額の妥当性を説明できる資料を集める
ステップ4:株主総会の決議等で金額を具体的に確定し、議事録などの記録を残す
ステップ5:損金算入の時期と、支払いに必要な資金を決算・資金繰りの計画と照らして確認する(積立不足の考え方は退職給付債務とはを参照)
ネクストプレナーズの見解
中小企業の実務では「倍率を何倍にするか」に議論が集中しがちですが、私たちは、金額の根拠を後から説明できるかどうかが重要だと考えます。在任年数、退任直前の報酬、退職の事情、同種・同規模の法人の状況を、株主総会で決議する前に整理しておくことをおすすめします。また、役員退職金は支給時にまとまった資金が必要になるため、損金算入の可否とあわせて、支払いの原資をどう準備するかを早めに検討することをおすすめします。個別の税務判断は、顧問税理士などの専門家とご確認ください。
よくある質問
Q. 役員退職金の相場はいくらですか?
A. 法令や国税庁の通達には、一律の相場や上限額は示されていません。在任年数、退職の事情、同種・同規模の法人の支給状況などに照らして、会社ごとに相当な金額かどうかが判断されます。
Q. 功績倍率は何倍までなら認められますか?
A. 国税庁の通達や条文に、具体的な倍率の数値は示されていません。倍率そのものではなく、算定した退職金の額が退職給与として相当かどうかで判断されるため、算定の根拠を説明できるようにしておくことが大切です。
Q. 役員退職金は、支給した事業年度に損金にできますか?
A. 原則は、株主総会の決議等で金額が確定した日の属する事業年度の損金です。ただし、実際に支払った事業年度に損金経理をした場合は、その事業年度の損金とすることも認められています。
Q. 取締役会で内定した退職金を、未払金に計上すれば損金になりますか?
A. いいえ、なりません。国税庁は、金額が具体的に確定する事業年度より前に、取締役会で内定した金額を損金経理により未払金に計上しても、その時点で損金の額に算入することはできないとしています。
Q. 社長が会長になって会社に残る場合も、退職金を支給できますか?
A. 分掌変更により地位や職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情があると認められる場合は、退職給与として取り扱うことができます。ただし、分掌変更後も実質的に経営上主要な地位を占めていると認められる場合は、通達が挙げる例示の対象から除かれます。個別の事情は専門家にご確認ください。
Q. 不相当に高額と判断されたら、退職金の全額が損金にならないのですか?
A. いいえ、損金不算入となるのは、相当と認められる金額を超える部分の金額です。法人税法施行令第70条第2号は、「その超える部分の金額」を損金に算入しないと定めています。
監修
監修:仙頭 武宏(株式会社ネクストプレナーズ 代表取締役社長)
東京工業大学(現・東京科学大学)工学部制御システム工学科卒業。日本オラクル株式会社でエンジニア、コンサルタントを経て経営企画室マネージャを務める。一橋大学大学院商学研究科(現・一橋ビジネススクール)経営学修士(MBA)修了。独立コンサルタントを経て、2012年より株式会社ネクストプレナーズ代表取締役社長
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本記事は公的機関の公表資料等を基にした一般的な情報です。個別の制度設計・手続きは専門家にご確認ください。
出典
・タックスアンサー No.5208 役員の退職金の損金算入時期(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5208.htm
・法人税基本通達 第9章第2節 第7款 退職給与(国税庁)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_02_07.htm
・法人税法(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
・法人税法施行令(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000097
・会社法(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086


